司法試験民法短答式試験過去問H30第21問―【相殺】
みなさん、こんにちは!
今日は、民法過去問H30の第21問を解説していきます。
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〔第21問〕(配点:3)
相殺に関する次のアからオまでの各記述のうち,判例の趣旨に照らし正しいものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。(解答欄は,[№21])
ア.抵当不動産の所有権を取得したAが,抵当権者Bに対する売買代金債権を有している場合には,当該売買代金債権と抵当権の被担保債務であるCに対する貸金債務とを対当額において相殺することができる。
イ.弁済期の定めのない貸金債権を有する者は,当該貸金債権の債務者に対して,弁済期が未到来の売買代金債務を負担している場合には,当該売買代金債務の期限の利益を放棄した上で,これらの債権債務を対当額において相殺することができる。
ウ.請負代金債務を負担する注文者が,請負人に対する貸金債権を譲り受けたが,譲受けの時点で当該貸金債権の消滅時効が完成していた。その後,請負人により消滅時効が援用された場合,注文者は,これらの債権債務を対当額において相殺することができない。
エ.車両同士の交通事故が双方の運転者の過失に基因して発生し,双方に物的損害のみが生じた場合,一方の運転者は,双方の損害賠償債権を対当額において相殺することができる。
オ.AがB銀行に対する定期預金債権を有していたところ,Cが,Aと称して,B銀行に対し,その定期預金債権を担保とした貸付けの申込みをし,B銀行は,CをAと誤信したため貸付けに応じた。この場合,B銀行は,貸付けの際に,Cを預金者本人と認定するにつき金融機関として負担すべき相当の注意義務を尽くしていたとしても,その貸付債権と定期預金債権とを対当額において相殺することができない。
1.ア ウ 2.ア エ 3.イ ウ 4.イ オ 5.エ オ出典
アについて
本問題はAのBに対する売買代金債権・BのCに対する被担保債権を相殺できるかが問題です。
この件に関して「抵当不動産の第三取得者が、自己の抵当権に対する債権を自働債権とし、抵当権者の債務者に対する債権(被担保債権)を受働債権として相殺することはできない(大判昭8.12.5)」とされています。
自働債権はA→Bとなりますが、受働債権はB→Cとなっています。ここでは両方の債権が対立している状態にないため、上記判決のように相殺することはできません。
よって、解答は✖となります。
イについて
ウについて
エについて
民法509条では以下のように規定されています。
債務が不法行為によって生じたときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。
ここにあるように不法行為によって生じた債務は、相手に対する債権と相殺することはできません。これは、本件のような債務は相手に生じた損害を「相殺」という形ではなく「弁済」で補てんすることが目的となっているからです。
よって、解答は✖となります。
オについて
最高裁判決昭和47年3月27日判決の要旨では以下のように述べられています。
銀行が、無記名定期預金につき真実の預金者と異なる者を預金者と認定し、この者に対し、右預金と相殺する予定のもとに貸付をし、その後右の相殺をするときには、民法四七八条の類推適用がある。
民法478条では債権の準占有者にした弁済は
- 弁済をした者が善意
- 過失がない
この場合に限って弁済は効力を有するとされます。
判決の要旨では無記名定期債権と表見預金者への貸金債権は相殺できるとされているので、解答は✖となります。
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