司法試験憲法短答試験過去問解説H29第6問 【ビラ配布と表現の自由】
みなさん、こんにちは!
今日は、司法試験憲法過去問第6問を解説します。
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〔第6問〕(配点:3)
公務員宿舎である集合住宅の各室玄関ドアの新聞受けに,政治的意見を記載したビラを投かんする目的で同集合住宅の敷地等に立ち入った事案について判示した最高裁判所の判決(平成20年4月11日第二小法廷判決,刑集62巻5号1217頁)に関する次のアからエまでの各記述について,それぞれ正しい場合には1を,誤っている場合には2を選びなさい。(解答欄は,アからエの順に[№14]から[№17])ア.前記判決は,被告人らによる政治的意見を記載したビラの配布は,表現の自由の行使ということができ,その行為を刑法第130条前段の罪により処罰することは,表現そのものを処罰することの憲法適合性が問題となるとした。[№14]
イ.前記判決は,表現の自由は,送り手の情報が妨げられることなく受け手に受領されることを当然に内包しており,本件で被告人らの行為に刑事罰を科すことは,本件公務員宿舎の居住者が情報に接する機会を奪い,その受領権を侵害することになるとした。[№15]
ウ.前記判決は,本件立入りの場所が自衛隊・防衛庁当局が管理するものであることから,いわゆるパブリック・フォーラムたる性質を持つものであることを前提としつつ,判示したものである。[№16]
エ.前記判決の後の判決(最高裁判所平成21年11月30日第二小法廷判決,刑集63巻9号1765頁)では,政党のビラを配布するために民間の分譲マンションの各住戸の廊下等共用部分に立ち入った行為につき,表現の自由の重要性に鑑み,当該マンションの管理者が商業的な宣伝・広告のビラのみならず政党のビラを配布することまで禁止するのは合理性を欠くとして,かかる行為を刑法第130条の罪に問うことは憲法第21条第1項に反する旨判示された。[№17]
第6問は、立川反戦ビラ配布事件(最判平20・4・11)についての問題になります。
4問を通して一つの判例を学ぶことができる良問となっています。
そのため、初学習者もこれで判例を覚えていただければとおもいます。
立川反戦ビラ配布事件
本件判例では、ビラ配布のために公務員(自衛隊宿舎)に立ち入った行為が住居侵入罪に問われました。
この、ビラ配布という表現の自由の行為の行使を妨げており憲法違反になるかが争点。
この点、最高裁は、管理人の意思に反して敷地内に入ることは許されず、表現の自由の行使にも公共の福祉(この判例では、住民の平穏に当たる)による制限があるため、刑法130条前段の罪に問うことは、憲法21条1項に違反しないとしました。
葛飾政党ビラ配布事件
立川反戦ビラ配布事件の後、葛飾政党ビラ配布事件という似た判例があります。
この判決でも、管理者の意思に反して敷地内に立ち入ることは許されていません。
住居侵入罪に問うことは憲法21条1項に違反しないとしました。
これをもとに、本問題を見ていきましょう。
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アについて
判決では、表現そのものを処罰することの憲法適合性ではなく、「表現の手段すなわちビラの配布のために「人の看守する邸宅」に管理権者の承諾なく立ち入ったことを処罰することの憲法適合性が問われ』るとしています。
これをもとに、表現の自由の行使のために管理者の意思に反して敷地内に立ち入ることが、管理者の管理権を侵害するだけでなく、住民の平穏も侵害することになるとしました。
よって、アの答えは「2」となります。
イについて
そもそも、本判決は表現の自由ではなく、表現の自由の行使のために敷地内に入った行為が問題となっており、これは上記アの憲法適合性からも明らかです。
そのため、表現の自由にはさほど触れられておらず、表現の自由の相手方の受領権も問題とされていません。よって、イの答えは「2」となります。
ウについて
ウでは、「パブリックフォーラム」という言葉が出てきますが、まずはこれを簡単に見てみましょう。
公園、広場、公会堂、道路などの公の施設は、それぞれ本来の目的をもっているが、同時に集会により一定の表現を行う場所としても有用である。
出典 フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
これは、伊藤正己裁判官の補足意見として述べられていますが、判例では採用されていません。
立川反戦ビラ配布事件においても、上記の憲法適合性が一番重視され、判決の内容でもあります。
受領権同様に判決で触れられていないものです。よって、ウの答えは「2」となります。
④エについて
エは、立川反戦ビラ配布事件後の「葛飾政党ビラ配布事件」の問題になります。
この判決においても、マンションの管理人がビラ配布を禁止していたことが明らかです。
管理人の意思に反してマンション内に立ち入った、また、住民の平穏を侵害したことは明らかとしました。
そのため、立川反戦ビラ配布事件と同様に、表現の自由が一定の制限を受けることを明確にしたうえで、刑法130条前段の罪に問うことは憲法21条1項に違反しないと判示しました。よって、エは「2」となります。
補足
上記ビラ配布事件以前にも、ビラ配布を刑法130条前段の罪に問うことが問題となった例として、いわゆる「駅構内のビラ配布事件」が挙げられます。
この判決でも、被告人らは駅構内に出るよう促されるもそれを聞かず、駅構内でビラ配布を続けました。
その行為は駅の管理人の管理権を侵害するものであり、表現の自由も制限を受けるとしており、上記の判決の先例となる判例です。
基本的に、管理者の意思に反するビラ配布は許されず、公共の福祉による制限を受けると覚えておきましょう。
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