司法試験民法短答式試験H29第11問【留置権】

みなさん、こんにちは!

今日は、司法試験過去問【留置権】の問題を解説します。 

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〔第11問〕(配点:2)
留置権に関する次のアからオまでの各記述のうち,判例の趣旨に照らし正しいものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。(解答欄は,[№11])

ア.AがBから甲建物を賃借し,Bに敷金を交付していた場合において,その賃貸借契約が終了したときは,Aは,敷金が返還されるまで甲建物を留置することができる。

イ.AからB,BからCに建設機械が順次売却され,BがAに対して代金を支払っていない場合に,Cが提起した所有権に基づく建設機械の引渡請求訴訟においてAの留置権が認められるときは,Cの請求は棄却される。

ウ.AがBから甲建物を賃借していたが,Aの賃料不払によりその賃貸借契約が解除された後,明渡しの準備をしている間にAが甲建物について有益費を支出した場合,Aは,Bに対し,その費用の償還請求権を被担保債権とする留置権を行使して甲建物の明渡しを拒むことはできない。

エ.甲土地の借地権者であるAが甲土地上にある建物について買取請求権を行使した場合,Aは,甲土地の賃貸人であるBに対し,その買取代金債権を被担保債権とする留置権を行使して甲土地の明渡しを拒むことはできない。

オ.甲建物の賃貸人Aが,賃借人Bに対して賃貸借契約の終了に基づき甲建物の明渡しを請求したのに対し,Bが賃貸借の期間中に支出した有益費の償還請求権に基づいて留置権を行使し,従前と同様の態様で甲建物に居住した場合,Bは,Aに対し,その居住による利得を返還する義務を負う。

1.ア イ 2.ア エ

3.イ オ 4.ウ エ

5.ウ オ

問題『http://www.moj.go.jp/content/001224569.pdf

解答『http://www.moj.go.jp/content/001225946.pdf

アについて

アは、敷金の返還と甲建物の明け渡しが同時、つまり同時履行の抗弁権が認められるかが争点です。

この点、判例では、敷金返還請求権を被担保債権として留置権は認められないとしています。

そのため、アの場合には留置権の行使が認められないため、答えは「×」となります。

イについて

イは、少々複雑な問題なのでゆっくりやっていきましょう。

前半部分について

「AからB,BからCに建設機械が順次売却され,BがAに対して代金を支払っていない場合」

この場合、296条では以下の様に規定しています。

留置権者は、債権の全部の弁済を受けるまでは、留置物の全部についてその権利を行使することができる。

民法第296条 - Wikibooks』  

296条では代金の弁済が終わるまでは、その目的物について留置権を行使できるため前半部分は正しいことになります。

後半部分について

「Aの留置権が認められ、Cが引き渡し請求訴訟をしていた場合に、Cの請求は棄却されるか」

代金を払わないBが悪いわけで、Aに留置権が認められるのは当然ですが、請求を棄却されてその目的物を得られないCも酷な状況に置かれます。

そのため、ここでは引き換え給付判決という最判昭33・3・13を見ていきます。

引き換え給付判決

まず、留置権は債務の弁済を受けるまで有する債権で、他の債権に優先して弁済を受けるという趣旨ではありません。

そのため、裁判所は「物の引渡請求に対する留置権の抗弁」に理由があれば、引渡請求を棄却せず「その物に関して生じた債権の弁済と引換に物の引渡を命ず」るとしました。

つまり、「債権の弁済」と「物の引渡」とは、同時履行の関係にあるということです。

以上、Aに留置権は認められるものの、Cの目的物引渡請求は棄却されないため、イの答えは「×」となります。

 

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ウについて

ウの問題では、民法295条2項が関係するため、まずその条文を見ていきましょう。

民法295条 留置権の内容

  1. 他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。
  2. 前項の規定は、占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない。

民法第295条 - Wikibooks

留置権が弁済期にないときは認められず、また、占有が不法行為であれば留置権は認められません。

この条文とウの問題について、大判大10・12・23の判決では類推適用で留置権が認められないとしています。

理由

一旦、占有権がなくなった後の占有者を悪意占有者または有過失占有者とみなすことを前提とします。

その場合、占有権が無くなったことを知ったうえで占有しているため「占有が不法行為によって生じた」ことは明らかです。

なので、民法295条2項の文言を類推適用して留置権を否定することが可能になります。

そのため、有益費の償還請求権を被担保債権として留置権を主張することはできません。

よって、ウの答えは「〇」となります。

エについて

エは、買取代金債権を被担保債権として留置権を行使し、土地の明け渡しを拒めるかどうかが争点です。

この点、大判昭18年・2・18では、建物代金債権に基づいて留置権を行使する場合は、その建物だけではなく土地についても留置権を行使でき、引き渡しを拒めるとしています。

よって、答えは「×」となります。この問題は、こうゆうものだと覚えておきましょう。

オについて

オの問題は、必要費・有益費を償還請求権として留置権を行使し、その後も居住した際の利得を返還すべきかが争点です。

この点、大判大10・5・13では、建物の保存のための必要費・有益費を償還請求権として、留置権を行使して居住し続けることは「特段の事情のない限り」認められるとしています。

ただし、その後、建物を使用するなどして居住で得た利得は不当利得として扱われます。

よって、Bに償還請求権による留置権はあるものの、Bは居住による利得を返還しなければならないので、答えは「〇」となります。

以上、ア=イ=エ=×、ウ=オ=〇となるので答えは「5」となります。

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