民法講座~占有権の効力①果実の取得から即時取得~193条から196条

みなさん、こんにちは!

今日は、占有権の効力を解説します。

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占有物について行使する権利の適法の推定

占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定する。『民法188条

解説

占有者は適法にその占有物について占有権を持つと推定されるため、この占有者から動産譲り受けた場合には前の占有者の「無過失」も推定されます。

推定の範囲

①権利の存在ないし帰属について適用されるもので、その権利を取得したり権利の変動を推定することはできません(判例)。

②自分がその物の占有を取得し、その物を占有していた前主との関係では、推定の援用ができないとされます(判例)。

推定の効果

推定というのは、反証は挙げられることによって破られるまでの間は正当であるが、反証によって推定の効果がなくなる可能性もある「消極的」なものです。そのため、推定が自己の占有の正当性を証明するものではなくなります。

無過失の立証

取得時効で10年の時効取得をする場合には、自分が無過失であることを立証する必要がありますが、即時取得の場合には無過失が推定されるため立証する必要はありません。

民法189条

善意の占有者は、占有物から生ずる果実を取得する。

善意の占有者が本権の訴えにおいて敗訴したときは、その訴えの提起の時から悪意の占有者とみなす。

民法189条

解説

善意占有者については、占有物から生じている果実を取得できることが許されました。果実は占有権を有する者に限り取得する権利があります。

果実取得の要件

①善意の占有者であるということ

果実聴取権などの本権を有していると誤信してしまっている占有者のことをいい、果実聴取権が含まれない留置権等を有していると誤信している場合は、善意の第三者に含まれません。また、過失の有無は問われないとされています。

②敗訴したとき

善意占有者でも、本権の訴えで敗訴した場合には、訴えが提起されたときから「悪意占有者」とみなされ、果実を返還する義務を負うことになります。

果実とは

天然果実・法定果実も含まれますが、判例では占有物を利用することによる利益も含まれるとされています。

不当利得との関係

果実を取得する場合には、不当利得の例外と解されており、189条が703条に優先するとされています。

 

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悪意の占有者による果実の返還等

悪意の占有者は、果実を返還し、かつ、既に消費し、過失によって損傷し、又は収取を怠った果実の代価を償還する義務を負う。

前項の規定は、暴行若しくは強迫又は隠匿によって占有をしている者について準用する。

民法190条

解説

先ほどの善意占有者とは違って、悪意占有者の果実の返還等に関する規定です。善意であれば果実を取得できますが、悪意占有者に限って果実の取得はできず、返還義務を負います。

この規定は、暴行・強迫によって隠匿して占有をしている場合、つまり、公然と見ても占有していることが分からない者に準用されます。

占有者による損害賠償

占有物が占有者の責めに帰すべき事由によって滅失し、又は損傷したときは、その回復者に対し、悪意の占有者はその損害の全部の賠償をする義務を負い、善意の占有者はその滅失又は損傷によって現に利益を受けている限度において賠償をする義務を負う。ただし、所有の意思のない占有者は、善意であるときであっても、全部の賠償をしなければならない。『民法191条

解説

占有者の故意や過失によって、その占有物を滅失・損傷した際には、悪意占有者は全部の賠償の義務を負いますが、善意占有者は「現に利益を受けている限度」で賠償すればよいとされています。

善意の占有者は占有物を自分の物だと思っているわけですから、その占有者に全部の賠償義務を課すことは酷ですので、現に利益を受けている限度という制約がなされました。

占有者について

善意占有者だとしても、その物を所有する意思がなく占有している場合には、悪意占有者と同じく全部の賠償をしなければなりません。

滅失・損傷

占有物の滅失・損傷には、物理的に滅失・損傷しただけではなく、紛失などによってその占有物の返還が困難になった場合も含まれています。

 

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即時取得

取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。『民法192条

解説

即時取得の要件は、①平穏に公然と動産の占有をはじめ②善意無過失の場合には、動産の即時取得が可能であるとされています。

要件

①動産であること

動産に含まれるもの

ex)未登録の自動車や、登録がなくなった自動車など

含まれないもの

ex)土地にある立木や、金銭など

②取引で占有権を取得すること

取引行為であるもの

ex)競売行為など

取引行為でないもの

ex)相続による承継

他人の山林を自分の土地の山林であると誤信し、立木を伐採した場合

③無権利者または無権利者からの譲渡である

相手方が、制限行為能力者であったり代理権がない無権代理人などからの譲渡の場合には、即時取得の対象とはなりえません。

④平穏かつ公然であり、善意無過失であること

⑤占有を取得すること

現実の引き渡し・簡易の引き渡し・指図による占有移転なら即時取得が可能ですが、占有改定による即時取得は認められていません。

即時取得による効果

即時取得によって取得できる権利は、所有権・質権となっています。取得した権利は、原始取得とみなされるため、譲渡人の占有時についていた他の権利は消滅します。

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盗品又は遺失物の回復

前条の場合において、占有物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から二年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。『民法193条

解説

前条、つまり即時取得の場合で、占有物が自分の意思によらずに占有を失ってしまった盗品・遺失物のときは、その盗難・遺失のときから2年間は占有者(占有物の取得者)に対して回復請求をすることができます。

回復請求権を持つ者

判例では、被害者又は遺失者であればよく、その物の所有者に限らないとしています(判例)。判例では賃借人・受寄者も請求できますが、通説では動産質権者は回復請求権を持たないとされています。

請求の相手方

請求の相手方には、盗難・遺失したものを現に占有している者だけではなく、特定承継人含むと解されます。

盗品又は遺失物の回復

占有者が、盗品又は遺失物を、競売若しくは公の市場において、又はその物と同種の物を販売する商人から、善意で買い受けたときは、被害者又は遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができない。『民法194条

解説

さきほどとは違い、盗品又は遺失物を競売・公の市場で、その物と同種のものを販売する商人から「善意」で買い受けた占有者に対し、被害者又は遺失者は占有者が購入に支払った代価を弁済しなければ、自分に占有権を帰属させることはできません。

代価弁済までの占有者の権利

盗品等の引き渡しを拒むことができる場合には、代価が弁済されるまでは盗品などを使用し収益を得る権利(使用収益権)が認められます。

被害者が弁済を選択して、その盗品等の引き渡しを行った場合には、占有者は盗品を返還したのちに被害者に対して代価の弁償の請求をすることが可能になります(判例)。

 

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動物の占有による権利の取得

家畜以外の動物で他人が飼育していたものを占有する者は、その占有の開始の時に善意であり、かつ、その動物が飼主の占有を離れた時から一箇月以内に飼主から回復の請求を受けなかったときは、その動物について行使する権利を取得する。『民法195条

解説

他人が飼育していた家畜以外の動物を占有する場合は、占有の開始時に善意であり、その動物が飼い主の占有を離れてから一箇月以内に占有権の回復請求を受けない場合には、その動物に関連する権利を取得します。

占有者による費用の回復請求

占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額その他の必要費を回復者から償還させることができる。ただし、占有者が果実を取得したときは、通常の必要費は、占有者の負担に帰する。

占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、悪意の占有者に対しては、裁判所は、回復者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。

民法196条

解説

1項について

占有者が占有物を返還する場合は、占有物の保存をするために支出した金額などを回復者に償還(払ってもらう)してもらうことができます。しかし、占有者が占有物の運用などで果実(利益)を得た場合には、必要費は占有者の負担となります。

必要費というのは、占有物を保存したり修理したりする費用のことで、果実の有無によって負担者が決まります。

2項について

占有者が占有物を改良したりするのに有益費を支出し、その占有物の価格が増加した(価値が上がった)場合には、その増加した金額を償還させることができます。有益費は、物の価値を高めるために支出したお金で、中古の車を直すなどです。

しかし、悪意占有者も有益費の償還請求は認められますが、回復者の請求で償還をするために相当の期限を付与することができます。

 

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