司法書士試験H30午前の部第5問【代理】

みなさん、こんにちは!

今日は、司法書士試験H30午前の部第5問を解説していきます。

司法書士試験H30午前の部第4問【無効又は取消し】

第5問 次の記述は,代理に関する教授と学生との対話である。教授の質問に対する次のアからオまでの学生の解答のうち,判例の趣旨に照らし正しいものの組合せは,後記 1 から5 までのうち,どれか。 教授: AとBとの間で,Aの代理人としてAの所有する甲不動産をCに売り渡す契約を締結する権限をBに与える委任契約を締結したという事例を前提として,代理について考えてみましょう。Bに代理権を授与した後,Aが破産手続開始の決定を受けた場合において,Bの代理権は消滅しますか。 学生:ア 本人が破産手続開始の決定を受けたことは代理権の消滅事由とされていませんので,Bの代理権は消滅しません。 教授: Bが,Aの許諾を得て復代理人Dを選任した場合において,その後,Bの代理権が消滅したときは,Dの代理権は消滅しますか。 学生:イ Dの代理権は,Bの代理権を基礎とするものですので,Bの代理権が消滅すれば,Dの代理権も消滅します。 教授: Bが,Cからも代理権を授与され,AとC双方の代理人としてAC間の売買契約を締結した場合には,当該売買契約の効力はどうなりますか。 学生:ウ AC間の売買契約は,無効となり,追認することもできません。 教授: Bが,Aから授与された代理権の範囲内でAの代理人としてCとの間でAの所有する甲不動産を売り渡す契約を締結したものの,その際,BがCから受け取った売買代金を着服する意図を有していた場合には,当該契約の効力は,Aに帰属しますか。 学生:エ Cが,Bの代金着服の意図を知らなかったのであれば,知らなかったことについてCに過失があったとしても,当該契約の効力は,Aに帰属します。 教授: それでは,AとBとの間で,Aの代理人としてCの占有する高名な乙絵画を買い受ける契約を締結する権限をBに与える委任契約を締結していたものとします。Bが,Aの指図に従いCとの間で乙絵画の売買契約を締結してその引渡しを受けたものの,Cが乙絵画について無権利者であった場合に,Aは乙絵画を即時取得することができますか。 学生:オ Cが無権利者であることについて,Bが善意無過失であったとしても,Aが善意無過失でなければ,Aは乙絵画を即時取得することができません。 1  アイ 2  アウ 3  イオ 4  ウエ 5  エオ 出典 問題『http://www.moj.go.jp/content/001266146.pdf』 解答『http://www.moj.go.jp/content/001266144.pdf

アについて

民法111条

代理権は、次に掲げる事由によって消滅する。 一  本人の死亡 二  代理人の死亡又は代理人が破産手続開始決定若しくは後見開始の審判を受けたこと。 委任による代理権は、前項各号に掲げる事由のほか、委任の終了によって消滅する。

 

111条が代理権消滅についての規定になりますが、委任契約の場合には委任の終了によって代理権が消滅します。

そのため、653条で定められる委任の終了の事由も確認しておきましょう。

民法653条

委任は、次に掲げる事由によって終了する。 一  委任者又は受任者の死亡 二  委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと。 三  受任者が後見開始の審判を受けたこと。

 

2項で述べられているように、委任者又は受任者が破産手続き開始の決定を受けたときに委任は終了し、それによって代理権も消滅します。

そのため、解答は✖となりますが、委任でない場合には破産手続き開始の決定で代理権が消滅しないということに注意しましょう。

 

 

イについて

復代理権の消滅事由は以下の通りになっています。

①本人の死亡、復代理人の死亡・破産・後見開始など、代理権一般の消滅原因(111条1項) ②代理人・復代理人間の委任関係の終了 ③代理人の代理権の消滅=代理人の死亡など

イでは③に該当するので、解答は◯となります。

ウについて

民法108条

同一の法律行為については、相手方の代理人となり、又は当事者双方の代理人となることはできない。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りではない。
ウは108条で定められる「双方代理」に該当すると考えられるため、売買契約は無効となりますので、解答は◯です。
ただ、あらかじめ許諾していた行為は無効とならない点に注意しましょう。

エについて

最高裁42年4月20日判決

 代理人が自己または第三者の利益をはかるため権限内の行為をしたときは、相手方が代理人の意図を知りまたは知りうべきであつた場合にかぎり、民法第九三条但書の規定を類推適用して、本人はその行為についての責に任じないと解するのが相当である。 出典『最高裁判決

ここで述べられるように、代理人が自己か第三者の利益のために代理権の権限内の行為をした場合、相手方が代理人の意図を知ることができれば(有過失)本人はその行為について責任がないとされています。

今回であれば、本人に効果が帰属しないと考えるのが適当なので、解答は✖となります。

民法93条

意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。

オについて

民法192条

取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
192条で示されるように、即時取得の要件は①動産を②取引で③平穏に・公然と・善意で・無過失で取得し、④現実の引き渡し・簡易の引き渡し・指図による占有移転で占有を取得すれば、動産の所有権・質権を取得できます。 この際に、無権代理人からの譲渡は無効となりますが、無権利者・無権限者からの譲渡は有効となります。 そのため、解答は✖となります。

 

司法書士試験H30午前の部第6問