司法試験民法短答式試験H28第25問【不動産賃貸借】

みなさん、こんにちは!

今日は、司法試験H28民法第25問を解説していきます。

 

〔第25問〕(配点:2) 不動産賃貸借に関する次のアからオまでの各記述のうち,判例の趣旨に照らし正しいものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。(解答欄は,[№25])

ア.建物所有を目的とする土地賃貸借の賃借人が,その親族名義で所有権保存登記をした建物を借地上に所有していても,当該借地の新取得者に対し借地権を対抗できない。

イ.自己の所有建物を賃貸して賃借人に引き渡した者が,賃貸借契約継続中に当該建物を第三者に譲渡してその所有権を移転した場合には,賃貸人たる地位を譲渡する旨の旧所有者と新所有者間の合意がなければ,賃貸人の地位は新所有者に移転しない。

ウ.対抗力のない賃借権が設定されている土地の所有権の譲渡において,新所有者が旧所有者の賃貸人としての地位を承継するには,賃借人の承諾は必要でない。

エ.土地賃貸借の賃借人は,当該土地の所有権移転に伴い賃貸人たる地位を譲り受けた者に対し,当該土地の所有権移転登記が経由されていないことを理由として,賃料の支払請求を拒むことができない。

オ.建物賃貸借契約において,当該建物の所有権移転に伴い賃貸人たる地位の承継があった場合は,承継の時点で旧賃貸人に対する未払の賃料債務があっても,旧賃貸人に差し入れられた敷金全額についての権利義務関係が新賃貸人に承継される。 1.ア ウ 2.ア オ 3.イ エ 4.イ オ 5.ウ エ

出典

問題『http://www.moj.go.jp/content/001182604.pdf

解答『http://www.moj.go.jp/content/001184007.pdf

アについて

最高裁昭和41年4月27日判決では「登記が対抗力をもつためには、その登記が少くとも現在の実質上の権利状態と符号するものでなければならないのであり、実質上の権利者でない他人名義の登記は、実質上の権利と符合しないものであるから、無効の登記であつて対抗力を生じない」としています。

述べられるように、登記が対抗力を持つためには他人名義ではなく、その登記が実質上の権利者である必要があり、そうでなければ登記は対抗力を持たないため解答は◯となります。

イについて

建物の所有権が移転されることによって、賃貸借契約も新所有者に承継されて新所有者が新たな賃貸人となります。そのため、両者の同意は不要と解されるため、解答は✖となります。

判例:最高裁昭和39年8月28日

ウについて

判例:最高裁昭和46年4月23日 新所有者が賃貸人を承継した場合は賃借人の同意は不要とされているため、解答は◯となりますが、賃借人に対抗するには登記が必要になります。

エについて

判例では、賃貸借の賃貸人は所有権移転で賃貸人の地位を譲り受けた者に対して、その土地の所有権移転登記が経由されていないことを理由に、賃料の支払請求を拒むことができるとしています。 そのため、解答は✖となります。

オについて

最高裁平成44年7月17日判決では、「・・・所有権移転で賃貸人の地位に承継があれば、旧賃貸人の敷金は賃借人の旧賃貸人に対する未払い賃料債務があれば弁済として充当され、その限度で敷金返還請求権は消滅し、残額の権利義務関係が新賃貸人に承継される」としています。

敷金の充当によって残った分の権利義務関係が新賃貸人に承継されるので、解答は✖となります。 以上、イ=エ=オ=✖・ア=ウ=◯なので解答は1となります。