司法試験過去問解説H29~第11問刑事補償請求権と国家賠償請求権の違いとは?

みなさん、こんにちは!

今日は、刑事補償請求権と国家賠償請求権の違いを解説していきます。

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〔第11問〕(配点:2)
刑事補償請求権に関する次の学生アからエまでの各発言について,正しいものの組合せを,後記1から6までの中から選びなさい。(解答欄は,[№22])

ア.「抑留又は拘禁という人権制限措置を受けたけれども結果として無罪とされた者に,相応の補償をすることによって,公平の要請を満たそうとするのが憲法第40条なんだね。」

イ.「無罪判決を受けた刑事被告人が,抑留又は拘禁されたことを理由に,憲法第17条に定める国家賠償を求め得るケースはあり得ないからね。」

ウ.「憲法第40条は『無罪の裁判を受けたとき』について定めているけど,この文言の意味について,無罪判決が確定したとき又は一旦確定していた有罪判決が再審の結果取り消されて無罪が言い渡されたときを意味すると解する説によれば,同条は免訴や公訴棄却の裁判を受けた場合についても補償することを要請していることになるよ。」

エ.「不起訴となった事実Aに基づく抑留又は拘禁であっても,そのうちに実質上は無罪となった事実Bについての抑留又は拘禁であると認められるものがあるときは,その部分の抑留又は拘禁も憲法第40条の『抑留又は拘禁』に包含されるとした最高裁判所の判例があったな。」

司法試験 H29 【11】 問題』 『司法試験 H29 解答

刑事補償請求権というのは、日本国憲法40条に定められており「何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる」権利のことをいいます。

条件

①抑留または拘禁された

②その後無罪の判決を受けた場合

刑事補償請求可能

正解のア・エを見てみましょう。

アについて

もし、拘禁された者が無罪となった場合に補償がされなかったらどうでしょうか。これでは、拘禁されている間に被った損害があるとしても、まったく補償をしてもらえず間違って拘禁されていた者があまりにもかわいそうです。

そのため、憲法40条では平等・公平という観点から、拘禁されその後無罪判決を受けた者に限って、国にその補償を求めることができるとされています。 

エについて

これは、実際の判決の部分になるので、併せて以下で見ていきましょう。

ある事件が発生し、Aはある事実の疑いをかけられ逮捕又は勾留されていました。その間、Aは逮捕状・勾留状に記載がない「疑いのある事実」についても取り調べを受けていました。

この後、ある事実の疑いは不起訴となり、一方で逮捕状・勾留状に記載がない「疑いのある事実」は起訴となりました。しかし、起訴となった事実についてAは無罪を言い渡されました。

↓  この場合、

無罪となつた事実についての取調が、右不起訴となつた事実に対する逮捕勾留を利用してなされたものと認められる場合においては、これを実質的に考察するときは、各事実につき各別に逮捕勾留して取り調べた場合と何ら区別すべき理由がない 『最高裁判決 刑事補償請求

無罪となった事実の取り調べ、つまり逮捕状・勾留状に記載がない事実についての取り調べが、不起訴となったある事実(最初に逮捕・勾留された理由)からの逮捕勾留を基にして行われた場合

最初の逮捕勾留された事実に基づく逮捕勾留と、逮捕状・勾留状に記載がない事実に基づく逮捕勾留にはなんら違いがなく、両者が独立した逮捕勾留ではなく関係のある逮捕勾留ということです。

これを踏まえて、最高裁の判例で憲法40条にある「抑留または拘禁」に含まれるものを考えていくと

たとえ不起訴となつた事実に基く抑留または拘禁であつても、そのうちに実質上は、無罪となつた事実についての抑留または拘禁であると認められるものがあるときは、その部分の抑留及び拘禁もまたこれを包含するものと解するを相当とする 『最高裁判決

上記で示した通り、憲法40条の「抑留または拘禁」に含まれるものは、不起訴となった事実の抑留拘禁でも、無罪となった事実(逮捕状・勾留状に記載がない事実)の抑留拘禁と関係があると認められれば、後者の抑留及び拘禁も憲法40条の「抑留または拘禁」に含まれるとしました。

まさに、エの問題はこの判決を引用した形となります。

このように、刑事補償請求権は憲法40条に示される通り、抑留または拘禁された後に無罪判決を受けた場合に認められる権利でした。

では、国家賠償請求とは何が違うのでしょうか。

 

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国会賠償請求権

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こちらは、国会賠償法第1条を見てみましょう。

国家賠償法第1条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。 『国家賠償法

よく例として挙げられるのは、警察官が拳銃で人を故意・過失があって打った場合です。この場合において、国・公共団体の公権力の行使に当たる公務員である警察官が、職務を行う中で他人に損害を加えたといえますから、国家賠償を請求できます。

しかし、国家賠償請求では刑事補償請求と同じで判断を誤った個人に対して賠償を請求できず、国・団体に対して国家賠償請求をできるとしています。

ただ、例外として国家賠償法1条2項では

前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する 『国家賠償法1条』

としており、その公務員に故意・重大な過失があれば、例外的に国・公共団体が公務員に求償権を有するとしています。

※求償権とは、国・公共団体が賠償した金額の一部をその公務員に対して支払いを求めることができる権利をいいます。

違いは?

刑事補償請求権・国家賠償請求権をみたところで、本題の両者の違いを簡単に説明します。条文だけ見てみると、刑事補償請求権には故意・過失が不要で、国家賠償請求権には故意・過失が必要ということが分かります。

また、両者の違いは、国家賠償請求権を認める場合はその行為が違法であるのに対して、刑事補償請求権の行為は違法ではないという点に違いがみられるようです。

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