司法書士試験H28午前の部第19問【不法行為】

みなさん、こんにちは!

今日は、司法書士H28午前の部第19問を解説していきます。

 

第19問 次の対話は,不法行為による損害賠償に関する教授と学生との対話である。教授の質問に対する次のアからオまでの学生の解答のうち,判例の趣旨に照らし正しいものの組合せは,後記1から5までのうち,どれか。

教授: Aが運転する自動車とBが運転する自動車とが衝突した事故によって,Aが負傷し,Bの自動車が破損したとします。この事故(以下「本件事故1」という。)の発生について,Bに過失があった場合には,AはBに対して不法行為による損害賠償請求をすることができますが,Bは,その損害賠償債権を受働債権とする相殺をAに対抗することができますか。

学生:ア 本件事故1によってBがAに対して取得した損害賠償債権を自働債権として相殺をするのであれば,BはAに対して相殺を対抗することができます。

教授: 本件事故1において,Aは首を負傷しましたが,Aは平均的体格に比べて首が長く,Aには頸椎の不安定症という身体的特徴があったとします。この身体的特徴は疾患と評価することができるようなものではなかった場合に,裁判所は,このようなAの身体的特徴を考慮して,損害賠償の額を減額することはできるでしょうか。

学生:イ この場合には,損害賠償の額を減額することはできません。

教授: さて,本件事故1においては,Aが運転する自動車に同乗していたAの妻Cも負傷していたとします。この場合において,CがBに対して不法行為による損害賠償請求をしたときに,裁判所は,本件事故の発生についてAに過失があったことを理由として過失相殺をすることはできるでしょうか。

学生:ウ 被害者であるC自身に過失がない場合には,過失相殺をすることはできません。

教授: 事例を変えて,Dが自動車の運転中に脇見をしていたところ,折悪しく左右を確認せずに歩行者Eが飛び出してきたため,Eをひいてしまい,死亡したEの遺族であるFがDに対してEの死亡について不法行為による損害賠償請求をするいう事例について考えてみましょう。この事故(以下「本件事故2」という。)において,Eを被保険者とする生命保険金をFが受け取っていたとします。FがDに対してEの死亡について不法行為による損害賠償請求をした場合に,Fが受け取った生命保険金の額を損害賠償の額から控除することができるでしょうか。

学生:エ Fが生命保険金を受け取っていたとしても,その生命保険金の額を損害賠償の額から控除することはできません。

教授: 本件事故1において,Eは小学生であり,自己の行為の責任を弁識するに足りる知能はないものの,事理を弁識するに足りる知能は有していたとします。裁判所は,Eに左右を確認していないという過失があったことを理由として過失相殺をすることができるでしょうか。

学生:オ Eには自己の行為の責任を弁識するに足りる知能がありませんので,過失相殺をすることができません。

1 アエ 2 アオ 3 イウ 4 イエ 5 ウオ

出典

問題『司法書士試験H28問題

解答『司法書士試験H28解答

アについて

民法509条
債務が不法行為によって生じたときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。

判例:最高裁判決平成49年6月28日

要旨では「 双方の過失に基因する同一交通事故によつて生じた物的損害に基づく損害賠償債権相互間においても、相殺は許されない」と述べられます。

物的損害に基づく損害賠償債権相互間で相殺は許されないため、解答は✖となります。

イについて

判例:最高裁判決平成8年10月29日

要旨では「右身体的特徴が疾患に当たらないときは、特段の事情がない限り、これを損害賠償の額を定めるに当たりしんしゃくすることはできない」と述べられます。

身体的特徴が疾患に該当しなければ、特段の事情のない限り、損害賠償の増額を定める際に参考にできないので解答は◯となります。

ウについて

民法722条2項
被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。

判例:最高裁判決昭和51年3月25日

要旨では「 夫の運転する自動車に同乗する妻が右自動車と第三者の運転する自動車との衝突により損害を被つた場合において、右衝突につき夫にも過失があるときは、特段の事情のない限り、右第三者の負担すべき損害賠償額を定めるにつき、夫の過失を民法七二二条二項にいう被害者の過失として掛酌することができる」と述べられます。

夫の過失を722条の過失として考えることができ、被害者に過失がなくても相殺することが可能となります。そのため、解答は✖となります。

エについて

判例:最高裁判決昭和39年9月25日

要旨によれば、生命保険金の額は損害賠償の額から控除することはできないので、解答は◯となります。

オについて

民法722条2項
被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。

判例:最高裁判決昭和39年6月24日

要旨では「 民法第七二二条第二項により被害者の過失を斟酌するには、被害者たる未成年者が、事理を弁識するに足る知能を具えていれば足り、行為の責任を弁識するに足る知能を具えていることを要しないものと解すべきである」と述べられます。

未成年者でも事理を弁識する知能を備えていれば過失相殺することができるので、解答は✖となります。 以上、イ=エ=◯・ア=ウ=オ=✖なので解答は4となります。