憲法判例【全農林警職法事件】と公務員の争議行為
みなさん、こんにちは!
今日は、全農林警職法事件を解説します。
全農林警職法事件最高裁判決を参考にしています。
スポンサードリンク
争点
全農林は所属長の承認なしに労働争議のあおりを行ったことが、国家公務員法に違反しないか問われた。
国公法で公務員の争議行為を禁止することが、憲法28条に違反するかが争点となります。
判決
労働基本権について
憲法28条によって保障されており、これは憲法25条の生存権の保障を基本理念とする。そのため、勤労条件に関する基準の法定の保障と相まって勤労者の経済的地位の向上を目的とするもの。
つまり、公務員は私企業の労働者とは異なるところはなく、また、労務を提供し生活の資を得ているものであることから、一般の労働者とも異なるところはなく、労働基本権は公務員にも保障されるということ。
しかし、労働基本権は経済的地位の向上のためのものであり、それ自体が目的とされる絶対的なものではなく、勤労者を含めた国民全体の共同利益の見地からの制約を免れません。
これは、憲法13条の公共の福祉によって制限されることを考えれば、当然のことであると言える。
これらをもとにして、本件の公務員の争議権の制限を考えていきます。
スポンサードリンク
公務員は私企業の労働者と異なり、国によって任命される。そのため、公務員の使用者は国民全体で労務提供義務は、国民に対して負うものです。
こうした理由で公務員の労働基本権を制限するのは許されませんが、公務員の地位の特殊性・職務の公共性を踏まえると、必要やむを得ない程度の制限を加えることは、合理的な理由がある。
公務員は公共の利益のために勤務し、公務を円滑に運営するためには、職責を果たすことが必要不可欠です。
それなのに、争議行為に及ぶと地位の特殊性・職務の公共性相容れず、公務に停廃をもたらしそれは国民全体の共同利益に重大な影響を及ぼすか、その恐れがあります。
公務員の勤務条件について
公務員の勤務条件は私企業の場合と異なり、国会の制定した法律・予算に従って行われるもので、公務員の使用者の政府に決定権を委任するかどうかも、国会の立法政策に関係する問題です。
そのため、政府が国会から委任を受けていないことについて、公務員が労働基本権を行使するのは的外れで正常なものではないとしています。
もし、こうした制度上の制約があるのに、公務員が争議行為をするなら政府は立法問題で解決できない問題に直面し、公務員の勤務条件決定の手続過程を歪曲することだとします。
さらに、憲法に定められる議会制民主主義に背馳し、国会の議決権を侵害してしまうおそれがあるとしました。
私企業の制限手段
私企業の場合には、公共性の高いものを除いて使用者はロックアウト(作業所閉鎖)を行うことができという労働者への対抗手段がある。
また、労働者の要求をすべて受け入れることは、企業の経営悪化などを招き最悪の場合には労働者の失業も招いてしまいます。
ここから、私企業の労働者の要求には制約があり、私企業の労働者と公務員の争議権が同じでないことが分かります。
また、私企業は需給について市場からの圧力を避けられず、争議行為にも市場からの欲勢力がかかるようになっている。
しかし、公務員には市場というものが存在せず、市場の抑制力が働かず争議行為が一方的な圧力となり、公務員の勤務条件決定の手続きをゆがめることは、ここからも明らかです。
こうしたことに加えて、本国も批准しているILOの条約でも公務員の地位の特殊性を認めており、また、公務員のストライキ権が制限されることは国際的にも確認されている事項です。
以上のことから、公務員の争議行為は、公務員の地位に特殊性と国民の共同利益という観点から、一般私企業とは異なる制約にあるものと理解するのは当然としました。
また、このことは、上記で示した国際的な視野に立っても明らかなことであるとしました。
スポンサードリンク
しかし、公務員には労働基本権が保障されており、この保障と国民全体の共同利益を守ることには均衡が保たれることを必要とするのは、憲法の趣意です。
そのため、制限に対してはなんらかの代替措置が講じられるべきであるが、公務員の勤務関係から具体的措置が憲法から要請されているかを考えていく。
公務員には法律による身分保障を受けながらも、特殊の公務員を除いて職員組合を結成・それに加入・加入しない自由を有しています。
さらに、当局は職員組合から申し入れがあった場合にはそれを受け入れるとされており、私企業のような団結権は認められませんが、交渉権は認められています。
また、職員組合であることを理由として当局から不利益な取り扱いを受けず、職員組合に加入していないという理由で、意見表明ができないということはありません。
しかし、公務員は地位の特殊性・職務の公共性から、公衆に対して同盟罷業・怠業・争議行為・怠業的行為を行うことを禁止されます。
また、違法な行為を企てたり遂行を共謀したり、あおってはならないことが規定され、この規定に違反した者は国に対して任命・雇用上の権利を主張できないなど、行政上の不利益を受けることは免れられない。
ただ、こうした行為に参加しただけの職員に罰則はなく、遂行を共謀したりそそのかし・あおり、またはこうした行為を企てた者について罰則が設けられているにとどまります。
こうしたことから、労働基本権の制約を受ける公務員に対して
「法は、国民全体の共同利益を維持増進することとの均衡を考慮しつつ、その労働基本権を尊重し、これに対する制約、とくに罰則を設けることを、最少限度にとどめようとしている態度をとつている」と解することが可能。
まとめると公務員の職務には公共性がある一方、法律で勤務条件が定められて身分も保証され、適切な代替措置も講じられている。
以上から、公務員の争議行為・あおり等を禁止するは、勤労者を含めた国民の共同利益という観点からのやむを得ない制約で、憲法28条に違反しないとしました。
スポンサードリンク
また、国公法110条1項17号では公務員であると否かとを問わず、争議行為の原動力・支柱となった者について、それを理由とした罰則規定を定める。
前述したように、公務員の争議行為の禁止は違法ではなく、争議行為をあおることは違法な争議行為に原動力を与えるものなので、他の参加者に比べて社旗的責任が重いことは明らかです。
そのため、争議行為の原因を作った者に対して、処罰の必要性を認めて罰則を定めることは、十分に合理性があるということができるとしました。
こうしたことから、国公法110条1項17号は憲法18条28条に違反するものではないと判決を下しました。
まとめ
・公務員の争議行為の制限は違法ではない
・公務員は一般企業の労働者とは異なるという特別権力関係に基づいて判決を下した
公務員の政治活動に関する判例はこちらもご覧ください
スポンサードリンク