憲法判例【寺西判事補事件】裁判官の政治活動の自由

みなさん、こんにちは!

今日は、寺西判事補事件を解説していきます。

最高裁判決全文はこちらになります。

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争点

裁判官に政治的活動の自由が認められるか。

判決

裁判所法52条1号について

「『積極的に政治運動をすること』とは、組織的、計画的又は継続的な政治上の活動を能動的に行う行為であって、裁判官の独立及び中立・公正を害するおそれがあるものが、これに該当すると解され」る。

⇒「具体的行為の該当性を判断するに当たっては、その行為の内容、その行為の行われるに至った経緯、行われた場所等の客観的な事情のほか、その行為をした裁判官の意図等の主観的な事情をも総合的に考慮して決するのが相当」としています。

表現の自由について

裁判官にも及ぶものだが、「憲法上の特別な地位である裁判官の職にある者の言動については、おのずから一定の制約を免れない」。

⇒「裁判官に対し『積極的に政治運動をすること』を禁止することは、必然的に裁判官の表現の自由を一定範囲で制約することにはなるが、右制約が合理的で必要やむを得ない限度にとどまるものである限り、憲法の許容するところである」としています。

そのため、その「禁止の目的が正当であって、その目的と禁止との間に合理的関連性があり、禁止により得られる利益と失われる利益との均衡を失するものでないなら、憲法二一条一項に違反しないというべき」としました。

 

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要約

裁判官の行動が政治的活動に該当するかは総合的に判断する必要がある。 また、表現の自由が当然に保障されるが、特別な地位にあるため一定の制約を受け、その制約が合理的であり利益のあるものなら憲法21条1項に違反しない。

政治的活動の禁止の目的

「裁判官の独立及び中立・公正を確保し、裁判に対する国民の信頼を維持するとともに、三権分立主義の下における司法と立法、行政とのあるべき関係を規律することにあり、この立法目的は、もとより正当である」

裁判官が積極的に政治的活動を行うと、「裁判官の独立及び中立・公正を害し、裁判に対する国民の信頼を損なうおそれが大きいから、積極的に政治運動をすることを禁止することと右の禁止目的との間に合理的な関連性があることは明らか」としました。

「さらに、裁判官が積極的に政治運動をすることを、これに内包される意見表明そのものの制約をねらいとしてではなく、その行動のもたらす弊害の防止をねらいとして禁止するときは、同時にそれにより意見表明の自由が制約されることにはなるが、それは単に行動の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約にすぎず、かつ、積極的に政治運動をすること以外の行為により意見を表明する自由までをも制約するものではない

一方で、「禁止により得られる利益は、裁判官の独立及び中立・公正を確保し、裁判に対する国民の信頼を維持するなどというものであるから、得られる利益は失われる利益に比して更に重要なものというべき」です。

⇒「禁止は利益の均衡を失するものではない」としました。 また、「『積極的に政治運動をすること』という文言が文面上不明確であるともいえず、裁判官が『積極的政治運動をすること』を禁止することは、もとより憲法二一条一項に違反するものではない」と結論付けました。

まとめ

裁判官の政治的行為による弊害を目的として禁止することは意見の表明を制約するものではなく、その禁止による利益も大きい。

上記に示されたように、「積極的に政治運動をすること」というのはその利益を失うような裁判官としての地位にふさわしくないものであると解され、文言は不明確ではない。

よって、裁判官の政治的活動を禁止することは憲法21条に違反しない。

 

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判決②

原審で裁判が公開されなかったことについて

憲法82条1項 裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。

「憲法82条1項は、裁判の対審及び判決は公開の法廷で行わなければならない旨を規定しているが、右規定にいう「裁判」とは、現行法が裁判所の権限に属するものとしている事件について裁判所が裁判という形式をもってする判断作用ないし法律行為のすべてを指すのではなく、そのうちの固有の意味における司法権の作用に属するもの、すなわち、裁判所が当事者の意思いかんにかかわらず終局的に事実を確定し当事者の主張する実体的権利義務の存否を確定することを目的とする純然たる訴訟事件についての裁判のみを指すものと解すべきである

裁判というのは、固有の意味における司法権の作用に属するものであり、純然たる訴訟事件の裁判のみを意味している

裁判官に対する懲戒は、裁判所が裁判という形式をもってすることとされているが、一般の公務員に対する懲戒と同様、その実質においては裁判官に対する行政処分の性質を有するものである。したがって、裁判官に懲戒を課する作用は、固有の意味における司法権の作用ではなく、懲戒の裁判は、純然たる訴訟事件についての裁判には当たらないことが明らかである」

⇒裁判官に対する懲戒は行政処分の性質を有するもので、純然たる訴訟事件についての裁判には該当しない。

まとめ②

最高裁では以上のように述べて、裁判官の懲戒は行政処分の性質を有するものであり、司法権の作用ではなく、訴訟事件についての裁判に該当せず、分限事件には憲法82条1項の適用はないとされました。

 

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