民法法律行為~時効総則についての解説
みなさん、こんにちは!
今日は、時効総則を解説していきます。
- 時効制度がある理由
- 時効の効力
- 時効の援用
- 時効の利益の放棄
- 時効の中断事由
- 解説
- 時効の中断の効力が及ぶ者の範囲
- 裁判上の請求
- 支払督促
- 和解及び調停の申し立て
- 破産手続参加等
- 催告
- 差押え、仮差押え及び処分
- 差押え、仮差押え及び仮処分
- 承認
- 解説
- 中断後の時効の進行
- 解説
- 未成年者又は成年被後見人と時効の停止
- 解説
- 夫婦間の権利の時効の停止
- 解説
- 相続財産に関する時効の停止
- 解説
- 天災等による時効の停止
- 解説
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時効制度がある理由
①永続した事実状態の尊重
A所有の土地にBが家を建てて長期に渡って占有していた場合、外見からみてBを所有者と思ってしまうため、その長期に渡って継続していた状態を維持する必要性があるから
②権利の上に眠る者は保護しない
③権利関係の立証の困難を救済する
例えば、書類が無くて金銭を支払ったから分からない場合には、金銭債務の立証が困難といえます。
時効の効力
時効の効力は、その起算日にさかのぼる。『民法144条』
解説
長期にわたって継続していた状態を保護するために、時効の効力は最初に遡って(遡及効)権利の得喪を認めるとしました。
※ただし、時効援用者が時効完成の起算点を早めたり遅らせることはできないとされます(最判昭35年7月27日)。
時効の効力
取得時効:占有開始時
消滅時効:権利行使可能な時
時効の援用
時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。『民法145条』
解説
時効の効果は、ただ待っていれば得られるものではなく、「時効を受けます!」というように援用しなければ、裁判所は裁判できず時効の効果を受けることはできません。
時効の利益の放棄
時効の利益は、あらかじめ放棄することができない。『民法146条』
解説
時効の利益というのは、時効を援用することでうけられる利益のことをいい、これをあらかじめ放棄することはできません。
これには、債権者が債務者に時効の効果が及ばないように時効の利益を放棄してしまうことを防ぐためという目的があります。
時効の利益の例としては、債務者の債務が消滅するという消滅時効の利益や、占有者の所有権が確定する取得時効の利益などです。
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時効の中断事由
時効は、次に掲げる事由によって中断する。一 請求
二 差押え、仮差押え又は仮処分
三 承認
『民法147条』
解説
①請求
裁判所に対して、時効によって権利を失う者が主張すること。
③承認
時効完成で利益を受ける者が、時効完成で権利を失う者に対して「僕はこの権利を知っていますよ~」ということを表示することをいいます。
時効の中断の効力が及ぶ者の範囲
前条の規定による時効の中断は、その中断の事由が生じた当事者及びその承継人の間においてのみ、その効力を有する。 『民法148条』
解説
時効中断の効力は当事者間または承継人のみに生じるため、権利を失うAがBCのうちCに対して時効中断をしたいときには、ACの当事者間で時効中断の効力が生じます。
裁判上の請求
裁判上の請求は、訴えの却下又は取下げの場合には、時効の中断の効力を生じない。 『民法149条』
解説
裁判上の請求をしたからといって時効中断の効力が発生するわけではなく、訴えの却下・取り下げがなされると時効が中断することはありません。
支払督促
支払督促は、債権者が民事訴訟法392条 に規定する期間内に仮執行の宣言の申立てをしないことによりその効力を失うときは、時効の中断の効力を生じない。 『民法150条』
解説
支払督促という手続きに基づいて、支払督促をしてから2週間以内に相手方から異議申し立てがなければ、債権者は仮執行の申し立てができますが、仮執行を申し立てることができる日から30日以内に申し立てをしない時は支払督促の効力を失うとされます(民事訴訟法第392条)。
支払督促
金銭その他の代替物又は有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について、債務者が申し立てを行うことによって、裁判所に支払督促を発布してもらうことができます(民事訴訟法第382条)。
その後、2週間以内に異議申し立てがあると支払督促は効力を失い、異議申し立てがなければ仮執行の宣言を行うことができます(民事訴訟法391条)。
仮執行を行った後、適法な督促異議の申し立てがあれば裁判の訴えの提起があったとされ(民事訴訟法395条)、異議申し立てがなければ支払督促は確定判決と同様の効力を生じます(民事訴訟法396条)。
和解及び調停の申し立て
和解の申立て又は民事訴訟法(昭和26年法律第222号)若しくは家事審判法(昭和22年法律第152号)による調停の申立ては、相手方が出頭せず、又は和解若しくは調停が調わないときは、一箇月以内に訴えを提起しなければ、時効の中断の効力を生じない。『民法151条』
解説
和解の申し立て・調停の申し立て
- 相手方が出頭しない
- 和解か調停が調わない
この場合、一箇月以内に訴えを提起しないと時効中断の効力を生じることはありません。また、訴えの定期によって時効中断の効力が生じるのは訴えの提起等の時ではなく、申し立てをしたときに遡ります。
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破産手続参加等
破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加は、債権者がその届出を取り下げ、又はその届出が却下されたときは、時効の中断の効力を生じない。『民法152条』
解説
債務者が破産手続きに入るなどした場合に時効中断の効力が生じることを規定しており、債権者がその届け出を取り下げたりした場合には、当然ながら時効中断の効力は生じません。
催告
催告は、六箇月以内に、裁判上の請求、支払督促の申立て、和解の申立て、民事調停法 若しくは家事審判法 による調停の申立て、破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加、差押え、仮差押え又は仮処分をしなければ、時効の中断の効力を生じない。『民法153条』
解説
催告をしただけでは時効中断の効力が生じることはなく、これまで紹介した裁判上の請求・支払督促の申立て・和解や調停の申し立て・破産手続等への参加、これより紹介する差押えなどを6か月以内に行わないと時効中断の効力を生じません。
差押え、仮差押え及び処分
差押え、仮差押え及び仮処分は、権利者の請求により又は法律の規定に従わないことにより取り消されたときは、時効の中断の効力を生じない。『民法154条』
差押え、仮差押え及び仮処分
差押え、仮差押え及び仮処分は、時効の利益を受ける者に対してしないときは、その者に通知をした後でなければ、時効の中断の効力を生じない。『民法155条』
解説
時効中断の効力が生じるのは、民法148条で学習したように当事者間のみであるが、本条では、差押えなどを当事者以外の者に行った場合に時効の利益を受ける者に通知をすれば時効中断の効力が生じるとしました。
例として、物上保証人(当事者ではない者)に対して仮差押えがなされた場合に、時効の利益を受ける債務者に対して通知をすれば、時効中断の効力が生じることが挙げられます。
承認
時効の中断の効力を生ずべき承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力又は権限があることを要しない。『民法156条』
解説
承認とは裁判上の請求で説明したように、時効によって利益を受けることができる者(当事者)が、時効完成で権利を失う者に対して、その権利の存在を通知することをいいます。
時効完成でその権利はなくなりますが、取得時効であれば占有している者が相手方の権利(所有権)や、消滅時効であれば相手方の消滅する権利(債権)を認めてしまうことです。
つまり承認というのは、単に相手方の権利を認めるだけですから、承認する者に行為能力や権限は必要ないとしました。
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中断後の時効の進行
中断した時効は、その中断の事由が終了した時から、新たにその進行を始める裁判上の請求によって中断した時効は、裁判が確定した時から、新たにその進行を始める。
『民法157条』
解説
中断した時効は中断事由が終了した時から、裁判上の請求で中断したい時効は裁判が確定したときから、「新たに」時効の進行が始まるとされています。
この「新たに」というのは、いったん中断した時効の続きからという意味ではなく、また一から時効が進行することを意味しています。初めに戻ってしまうということですね。これは、後に出てくる「停止」とは意味が違ってくるので注意しましょう。
未成年者又は成年被後見人と時効の停止
時効の期間の満了前六箇月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その未成年者又は成年被後見人に対して、時効は、完成しない。未成年者又は成年被後見人がその財産を管理する父、母又は後見人に対して権利を有するときは、その未成年者若しくは成年被後見人が行為能力者となった時又は後任の法定代理人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、その権利について、時効は、完成しない。
『民法158条』
解説
未成年者・成年被後見人の時効について定めており、単独では有効な行為ができない制限行為能力者であるため、法定代理人がいない間は時効が完成しないとしました。
この場合の時効の完成はしない、というのは時効を中断するという意味ではなく、時効を「停止」するという意味で使われています。
そのため、法定代理人が就職して6か月を経過すると停止していた時効がまた再開することになります(ゼロからのスタートではないことに注意)。
夫婦間の権利の時効の停止
夫婦の一方が他の一方に対して有する権利については、婚姻の解消の時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。『民法159条』
解説
婚姻という制度上、夫婦が時効中断などの行為を行うことは困難であると考えられるため、婚姻を解消してから6か月を経過するまでは、互いが一方に対して持つ権利に対して時効中断などの行為を行えないようにしました。
相続財産に関する時効の停止
相続財産に関しては、相続人が確定した時、管理人が選任された時又は破産手続開始の決定があった時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。『民法160条』
解説
相続が完全に行われるまでは、相続人などの権利関係が不明確であり、時効中断をできない場合があることから、相続人・管理人が確定したことで権利関係が安定するまでの期間を設けました。
天災等による時効の停止
時効の期間の満了の時に当たり、天災その他避けることのできない事変のため時効を中断することができないときは、その障害が消滅した時から二週間を経過するまでの間は、時効は、完成しない。『民法161条』
解説
天災などの非常事態が発生したことで時効を中断できないときには、障害が消滅したときから2週間経過を時効停止期間とし、時効中断行為を可能にするような救済措置を設けました。
取得時効はこちらから。
消滅時効はこちらから。
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