司法試験民法過去問解説H29第6問【代理】

みなさん、こんにちは!

今日は、司法試験民法の代理に関する問題を解説します。

司法試験民法問題解説H29年第4問

〔第5問〕(配点:2) 代理に関する次のアからオまでの各記述のうち,判例の趣旨に照らし正しいものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。(解答欄は,[№5]) ア.代理人が自己又は第三者の利益を図るために契約をした場合において,それが代理人の権限内の行為であるときは,本人は,代理人の意図を知らなかったことについて相手方に過失があったとしても,その行為について責任を免れることができない。 イ.第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は,その他人に代理権が与えられていないことをその第三者が知り,又は過失によって知らなかったことを主張立証すれば,そ の表示された代理権の範囲内においてされた行為について責任を免れる。 ウ.権限外の行為の表見代理は,代理人として行為をした者が当該行為をするための権限を有すると相手方が信じたことにつき本人に過失がなかったときは成立しない。 エ.代理権消滅後の表見代理は,相手方が代理人として行為をした者との間でその代理権の消滅前に取引をしたことがなかったときは成立しない。 オ.相手方から履行の請求を受けた無権代理人は,表見代理が成立することを理由として無権代理人の責任を免れることはできない。 1.ア イ 2.ア エ 3.イ オ 4.ウ エ 5.ウ オ 『司法試験H29 問題』 『司法試験H29 解答

アについて

民法93条 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。

 

代理人が自己または第三者の利益を図るために代理権を濫用した場合の問題ですが、判例では、この場合に相手方が代理人の意図を知りまたは知ることができた場合(悪意有過失・判例)に、93条但し書きを類推適用して本人に法律行為の効果は帰属せず、本人は履行責任を負わないとしています。

93条但し書きの類推適用をする際には、自己・第三者に利益を帰属させるという意思と本人のためにするという表示とに、意思と表示に不一致が起こっていることが必要であり、上記がそれに当たる。

イについて

イは、109条の本文をそのまま問題にした形になっています。代理権授与の表示による表見代理の場合であり、AがBに対して代理権を与えていないのに、CにはBに代理権を与えたということを告げてBとCが法律行為を行った場合には、Aに効果が帰属します。

ここでBには代理権が与えられていないわけですが、109条但し書きでは代理権がないことに第三者(C)が悪意・有過失であれば、Bに代理権を与えた旨を表示したAは責任を免れるため、答えは「〇」となります。

ウについて

判例:最高裁昭和34年2月5日

表見代理とは、代理権がないものの代理権があるような外観を有し、それを信頼して取引をした相手方を保護するために、一定の条件下で本人に法律行為の効果を帰属させるとする、相手方保護の規定です。表見代理には以下の3パターンがあります。

    • 代理権授与の表示による表見代理
    • 権限外の行為の表見代理
    • 代理権消滅後の表見代理

表見代理は上記の条件のうち一つにでも当てはまり、かつ、相手方が代理権がないことにつき正当な理由(善意・無過失)であれば成立します。

そのため、基本的には本人の過失などは関係なく、相手方が善意・無過失であれば表見代理は成立します。よって、答えは「×」となります。

エについて

エはウで示した表見代理の3つ目に当たります。

代理権消滅前に取引をしていなければ、代理権消滅後の表見代理は成立しないように思えますが、条文・通説でもそのようなことは主張されていないため、答えは「×」になります。

オについて

無権代理人には、法律行為の履行責任・損害賠償責任の2つの責任があるとされ、これは代理権を有しないことにつき善意・無過失の相手方のみが無権代理人に請求できます。

本件では、表見代理を理由として無権代理人の責任を免れることができるかが問題です。

この点につき、最高裁は無権代理の責任を免れるために表見代理の成立を主張できないとしているため(最判昭62・7・7)、答えは「〇」となります。

よって、ア=ウ=エ=×、イ=オ=〇となるため答えは「3」となります。

司法試験H29民法過去問解説第六問