司法試験過去問解説平成29年民法短答式試験第12問
みなさん、こんにちは!
今日は、【物上代位】の問題を解説します。
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〔第12問〕(配点:2)
物上代位に関する次のアからオまでの各記述のうち,判例の趣旨に照らし誤っているものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。(解答欄は,[№12])ア.抵当権者は,抵当権設定登記がされた後に物上代位の目的債権が譲渡されて第三者に対する対抗要件が備えられた場合においても,目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる。
イ.動産売買の先取特権者は,物上代位の目的債権が譲渡されて第三者に対する対抗要件が備えられた後においては,目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することはできない。
ウ.抵当権者は,抵当権設定登記がされた後に物上代位の目的債権が転付命令の確定により差押債権者に移転した場合においても,目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる。
エ.抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをした後は,抵当不動産の賃借人は,抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とし,賃料債権を受働債権とする相殺をもって抵当権者に対抗することはできない。
オ. 抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをした場合には,その後に賃貸借契約が終了し,抵当不動産が明け渡されたとしても,抵当不動産の賃借人は,抵当権者に対し,敷金の充当によって当該賃料債権が消滅したことを主張することはできない。
1.ア イ 2.ア ウ 3.イ エ 4.ウ オ 5.エ オ
アについて
民法304条 1項
払渡し・引き渡しの前に差押えをしなければいけないわけですが、最高裁は抵当権の場合には債権譲渡が「払渡し・引渡し」に含まれないとしています。つまり、対抗要件が備えられた後でも、物上代位権を行使することができるということです。
そのためアは抵当権の場合ですので、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使できるため〇となります。
②イについて
先取特権にも物上代位性はありますが、抵当権とは違って目的債権が譲渡されて第三者に対して対抗要件が備えられた後には、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができません。
そのためイは〇となります。
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③ウについて
転付命令が確定した際には、被転付債権(被差押債権)が差押債権者に移転することになります。そうすると、その債権が移転した範囲で差押債権者が所有している訴求債権は当然に消滅することになります。
そのためすでに移転されている目的物債権を差し押さえるのはおかしいことが分かりますからウは✖となります。
④エについて
抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをした後は,抵当不動産の賃借人は,抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって,抵当権者に対抗することはできない。
エについてはこの判決より明らかであるので解答は〇となります。
しかし、本判決では「差押えがされた後に発生した賃料債権については,上記合意に基づく相殺をもって被上告人に対抗することができない」としていることから、それ以前に生じた債権については相殺が認められる可能性があることに注意しましょう。
⑤オについて
敷金が授受された賃貸借契約に係る賃料債権につき抵当権者が物上代位権を行使してこれを差し押さえた場合において,当該賃貸借契約が終了し,目的物が明け渡されたときは,賃料債権は,敷金の充当によりその限度で消滅する。
判決ではこれを賃料債権の面から見たときに、目的物を返還する際に残っている賃料債権等(未払い賃料) は、敷金が存在する限度で敷金を充当することで当然に消滅します。
こうした敷金を充当することで未払い賃料が消滅するのは、敷金契約から当然として発生するものであり、「相殺する」という当事者間の意思表示を必要としているものでないことは明らかです。
民法511条
支払の差止めを受けた第三債務者は、その後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができない。
そのため511条によって消滅の効果は妨げられないと判決がされました。以上より、相殺できることが分かっているのでオは×になります。
よってア=イ=エ=〇、ウ=オ=×であるため解答は4となります。
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