憲法判例~【百里基地訴訟】と憲法9条・私人間における行為の関係

みなさん、こんにちは!

今日は、百里基地訴訟を解説します。

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争点

百里基地を建設する必要性が生じ、その土地を所有するAは基地建設反対派のBにその土地を売却する旨の契約を締結しましたが、Bは代金を支払いませんでした。

そのため、AはBの代金未払いを理由として売買契約を解除し、その土地を国に売却しました。

この後、Aと国はB名義の土地の登記抹消と、その土地の国の所有権確認訴訟を提起しました。

これに対して、Bはその土地の自分の所有権確認の反訴を起こし、Aの国への土地譲渡が9条に反して無効だとしました。

そのため、争点は国への土地譲渡が9条に反して無効となるかどうかです。

判決

国務に関する行為

98条1項に列挙されている法律・命令・詔勅と同一のせ性質を有する国行為、つまり公権力を行使して法規範を定立する国の行為を言います。

そのため、行政処分・裁判といった国の行為は個別的・具体的な公権力を行使して、法規範を定立する国行為といえます。

よって、法規範を定立する限りにおいて、国務に関する行為に該当するものというべきである。

ただ、国の行為でも私人と対等の立場で行う場合は、法規範の定立を伴っておらず憲法98条1項にいう「国務に関するその他の行為」に該当していないというべきとしています。

憲法9条について

上告人
国の行為は、私人間で行われた私法上の行為と同一視すべきではないが、仮に同一視しても憲法が保障する平和主義・平和的生存権に違反しており、憲法9条を直接適用して違反している

判決

上告人らの主張する平和主義・平和的生存権の「平和」とは、極めて抽象的な概念でそれが独立して具体的訴訟で私法上の行為の効力の判断基準になるとは言えないとしています。

また、憲法9条は憲法規範としての性格を有するため、私法上の行為の効力を直接規律していることを目的としておらず、人権規定と同様に私法上の行為に対しては直接適用されるものではないと解するのが相当としています。

このことから、国が一方当事者として関与した行為でも国が行政の主体として私人の立場に立って、私人との間で契約する私法上の契約については

その契約が成立の経緯・内容を実質的に見て公権力の発動たる行為となんら変わりが無いといえる特段の事情がない限り、憲法9条の直接適用を受けず、私人間の利害関係の公平な調整を目的とする私法の適用を受けるのみとしました。

民法90条について

上告人の主張

憲法9条の規定にいう平和的生存権の保障が売買契約に適用されなくても、この規定などは民法90条の定める公序の内容を形成し、この規定に違反している売買契約は結局民法90条に違反して無効と主張します。

判決

憲法9条の規範は、そのままの内容で民法90条の「公の秩序」の内容を形成しており、それに反する私法上の行為の効力を一律に否定する法的作用を営むことはない。

そのため、私法規範によって相対化され民法90条にいう「公の秩序」の内容を一部を形成しているといえる。

この売買契約締結時は、自衛隊のために国が私人と私法上の契約を締結することが、社会一般において反社会的な行為であるという認識は確立していなかった。

そのため、自衛隊の基地建設を目的または動機として締結された売買契約は、私法上の契約として効力を否定されるような行為とは言えないとしました。

国の土地契約行為は、憲法9条に違反せずその効力も否定されないという判例でした。

 

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