憲法判例【参議院議員定数配分規定】最高裁昭和58年4月27日判決

みなさん、こんにちは!

今日は、最高裁昭和58年4月27日判決を解説していきます。

最高裁全文はこちらになります。

争点

①地方選出議員の地方的性格は認められるか。 ②参議院議員定数配分規定の合憲性。

判決

衆参両議員を選挙する権利

「国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利であつて、憲法は、その重要性にかんがみ、一四条一項の定める法の下の平等の原則の政治の領域における適用として、成年者による普通選挙を保障するとともに、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて選挙人の資格を差別してはならないものとしている」

⇒選挙権に関して選挙人の資格差別はない。 

「そして、この選挙権の平等の原則は、単に選挙人の資格における右のような差別を禁止するにとどまらず、選挙権の内容の平等、すなわち議員の選出における各選挙人の投票の有する価値の平等をも要求するものと解するのが相当である」

⇒選挙権の平等原則は投票の価値の平等を要求する。

投票価値について

「議会制民主主義の下において国民各自、各層のさまざまな利害や意見を公正かつ効果的に議会に代表させるための方法としての具体的な選挙制度の仕組みをどのように定めるかによつてなんらかの差異を生ずることを免れない性質のものである
⇒選挙制度の仕組みによって差異が生じる。
「どのような選挙の制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国会に反映させることになるかの決定を国会の極めて広い裁量に委ねているのである
⇒選挙制度の決定は国会に広い裁量がある。
「それゆえ、憲法は、右の投票価値の平等を選挙制度の仕組みの決定における唯一、絶対の基準としているものではなく、国会は、正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由をもしんしやくして、その裁量により衆議院議員及び参議院議員それぞれについて選挙制度の仕組みを決定することができるのであつて、国会が具体的に定めたところのものがその裁量権の行使として合理性を是認しうるものである限り、それによつて右の投票価値の平等が損なわれることとなつても、やむをえないものと解すべきである
⇒投票価値の平等は唯一絶対の基準ではなく、それが損なわれたとしてもやむをえないこともある。

本件選挙制度について

「国民各自、各層の利害や意見を公正かつ効果的に国会に代表させるための方法として合理性を欠くものとはいえず国会の有する裁量的権限の合理的な行使の範囲を逸脱するものであるとは断じえないのであつて、その当否は、専ら立法政策の問題にとどまるものというべきである」

⇒合理的な制度であり、裁量の範囲を逸脱するものではない。

「上告人らは、憲法四三条一項の規定は参議院地方選出議員の議員定数の各選挙区への配分についても厳格な人口比例主義を唯一の基準とすべきことを要求するものであり、右のように地域代表の要素を反映した定数配分は憲法の右規定に違反する旨を主張する」

「ただ、右規定にいう議員の国民代表的性格とは、本来的には、両議院の議員は、その選出方法がどのようなものであるかにかかわらず特定の階級、党派、地域住民など一部の国民を代表するものではなく全国民を代表するものであつて、選挙人の指図に拘束されることなく独立して全国民のために行動すべき使命を有するものであるということを意味する」

⇒両議院は選出方法にかかわらず全国民を代表し、全国民のために行動すべき使命を有する。

「その規定が議員定数配分に厳格な人口比例主義を唯一、絶対の基準とすべきことを要求しておらず、参議院地方選出議員の選挙の仕組みについて事実上都道府県代表的な意義ないし機能を有する要素を加味したからといつてこれによつて選出された議員が全国民の代表であるという性格と矛盾抵触することになるものということもできない

都道府県代表的な意義・権能を有する要素を加味しても、全国民の代表という性格とは矛盾牴触しない

まとめ①

「参議院地方選出議員の選挙の仕組みが国会に委ねられた裁量権の合理的講師として是認」することができる。 そのため、「選挙区間における選挙人の投票の価値の平等が損なわれることとなつたとしても、先に説示したとおり、これをもつて直ちに右の議員定数の配分の定めが憲法一四条一項等の規定に違反して選挙権の平等を侵害したものとすることはできないといわなければならない」

⇒投票価値の平等の要求は「一定の譲歩、後退」を避けることはできない。

「したがつて、本件参議院議員定数配分規定は、その制定当初の人口状態の下においては、憲法に適合したものであつたということができる」として、違憲性を否定しました。

判決②

しかし、制定当初には憲法に適合していた参議院議員定数配分規定による各選挙区への配分も、その後の人口異動に対応した是正措置が講じられないことで格差が拡大していました。

その制度の変更について

「しかしながら、不断に生ずる人口の異動につき、様々な事情を考慮して選挙制度の仕組みの反映・どんな方法で解決するかなどの問題は、いずれも複雑かつ高度に政策的な考慮と判断を要求するものであつて、その決定は、これらの変化に対応して適切な選挙制度の内容を決定する責務と権限を有する国会の裁量に委ねられているところである」

⇒この制度の変更も国会の裁量にゆだねられている。

違憲となる場合について

人口異動で選挙区間の議員一人当たりの選挙人数の格差が拡大し、当初の議員定数配分の基準・方法が状況とそごをきたしても、「その一事では直ちに憲法違反の問題が生ずるものではなく、その人口の異動が当該選挙制度の仕組みの下において票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度の投票価値の著しい不平等状態を生じさせ、かつ、それが相当期間継続して、このような不平等状態を是正するなんらの措置を講じないことが、複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立つて行使されるべき国会の裁量的権限に係るものであることを考慮しても、その許される限界を超えると判断される場合に、初めて議員定数の配分の定めが憲法に違反するに至るものと解するのが相当である

⇒当初の配分基準・方法が状況と異なっていても、それが直ちに憲法違反とはならない。
⇒票価値の著しい不平等・国会の裁量の限界を超えている場合に、議員定数の配分規定が違憲と判断される。

本件について

「国会が本件参議院議員選挙当時までに地方選出議員の議員定数の配分を是正する措置を講じなかつたことをもつて、その立法裁量権の限界を超えるものとは断じえず、右選挙当時において本件参議院議員定数配分規定が憲法に違反するに至つていたものとすることはできない」

⇒是正措置を講じないことが立法裁量権の限界を超えず、定数配分規定も違憲ではない。