司法試験民法短答式試験H27第20問【相殺】

みなさん、こんにちは!

今日は、司法試験H27民法第20問を解説していきます。

司法試験民法短答式試験H27第19問

 

 

〔第20問〕(配点:2) 相殺に関する次のアからオまでの各記述のうち,判例の趣旨に照らし正しいものを組み合わせたものは,後記1から5までのうちどれか。(解答欄は,[№20]) ア.AのBに対する甲債権が差し押さえられた後,BがAに対する乙債権を取得した場合,Bは,乙債権を自働債権として甲債権と相殺することができる。 イ.賃貸人が賃料の不払を理由として賃貸借契約を解除した後,賃借人が解除後に存在を知った賃貸人に対する債権と賃料債務を相殺により消滅させたとしても,賃貸借契約の解除の効力には影響がない。 ウ.継続的契約の当事者が,その契約が終了したときに債権債務が残っていた場合は相殺することをあらかじめ合意していたとしても,その合意は無効である。 エ.債権が不法行為によって生じたときは,その債権者は,その債権を自働債権として相殺することができる。 オ.注文者は,請負人に対する目的物の瑕疵の修補に代わる損害賠償債権を自働債権として,請負人の注文者に対する報酬債権と相殺することはできない。 1.ア イ 2.ア ウ 3.イ エ 4.ウ オ 5.エ オ 出典 問題『司法試験H27民法短答式問題』 解答『司法試験H27民法短答式解答

アについて

民法511条
支払の差止めを受けた第三債務者は、その後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができない。

当該債権が差し押さえられた時に第三債務者が反対債権を有していれば対抗できるとするのが判例の立場になります。

そのため、アであればBは債権が差し押さえられた後に反対債権を取得していることから対抗できないため、解答は✖となります。

 

 

イについて

民法506条 相殺は、当事者の一方から相手方に対する意思表示によってする。この場合において、その意思表示には、条件又は期限を付することができない。 前項の意思表示は、双方の債務が互いに相殺に適するようになった時にさかのぼってその効力を生ずる。

最高裁昭和昭和32年3月8日判決では賃料不払いによる契約解除後の相殺によって債務が消滅しても、契約の解除に影響はないとしています。

そのため、解答は◯となります。

ウについて

民法505条 二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。

民法506条では意思表示に条件・期限を付けることが禁止され、505条では相殺する場合は双方の債務が弁済期にあることが定められます。

特に、506条は相手方の地位を不安定にさせないための規定ですが、ウのような合意は明確であり相殺適状となったときに相手方の地位を不安定にさせません。

契約自由の観点から考えると本件のような合意は有効とみられるため、解答は✖となります。

エについて

民法509条 債務が不法行為によって生じたときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。

民法509条は不法行為によって生じた債権を受働債権として相殺することを禁止していて、債権者を保護する規定となっています。

逆に、債権者自らが相殺することを禁止する規定とは解されないため、解答は◯となります。

オについて

最高裁平成9年7月15日判決では「請負人の報酬債権に対し注文者がこれと同時履行の関係にある瑕疵修補に代わる損害賠償債権を自働債権とする相殺の意思表示をした場合、注文者は、相殺後の報酬残債務について、相殺の意思表示をした日の翌日から履行遅滞による責任を負う」と述べられます。

請負人の報酬債権と注文者の瑕疵修補に代わる損害賠償請求権の相殺は可能であるため、解答は✖となります。

以上、ア=ウ=オ=✖・イ=エ=◯なので解答は3となります。