〔憲法基礎知識〕―プライバシー権・プライバシー権と表現の自由に関する判例
さて、当ブログでもかなり判例を紹介してきたわけですが、今回は一度、基礎知識に戻って「プライバシー権」について見ていきたいと思います。
判例一覧
まずは、プライバシー権について言及している判例を見ていきましょう。
宴のあと事件
「私事をみだりに公開されないという保障は、不法な侵害に対しては法的救済が与えられるまでに高められた人格的な利益であると考えるのが相当で、人格権に包摂されるものではあるが、これを一つの権利と呼ぶものを妨げない」
ちなみに、宴のあと事件ではプライバシー権の侵害が認められるための法的救済の基準は以下のように述べられていました。
- 「私生活上の事実または事実らしく受け取られるおそれのあることがらであること」
- 「一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合公開を欲しないであろうと認められることがらであること」
- 「一般人の人々に未だ知られていないことであることを必要とし、このような公開によって当該私人が実際に不快、不安の念を覚えた」
京都府学連事件
個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由を有する・・・これを肖像権と称するかどうかは別として、少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法一三条の趣旨に反し、許されない
出典:『裁判所 | 裁判例情報:検索結果詳細画面』
京都府学連事件では「正当な理由もなく個人の容ぼう等を撮影するのは憲法13条の趣旨に反する」とされましたが、本件では犯罪捜査のためと言う理由があり、撮影が認められました。
さて、宴のあと事件と京都府学連事件の両方で見ましたが、プライバシー権というのは「個人の私生活に関する権利」ということができそうです。
表現の自由との関係性
プライバシー権が保障されているということですが、13条のこの権利は21条の表現の事由と衝突することが多々あります。
例えばですが、芸能人の私生活(プライバシー)を暴くような報道をする場合には、13条で保障されているプライバシー権と21条で保障されている表現の自由から導かれる報道の自由との衝突が挙げられます。
こうした場合には、13条と21条も「公共の福祉」によって調整が図れることになりますが、そうでないこともあるためどちらの人権を優先するのが争点となってきます。さらに、その報道の内容の事実性なども考える必要があります。
述べたように表現の自由とプライバシー権が衝突することはもちろんのこと、以下のように名誉棄損と報道の自由が問題となることもあり、日常的にこうした問題は発生していると言えます。
判例
ここでは、表現の自由とプライバシー権が衝突する際の判例を見ていきます。
前科照会事件
弁護士の照会に応じて区役所が犯罪歴・前科等をすべて公表した判例になります。
前科及び犯罪経歴は人の名誉、信用に直接にかかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する
出典:『http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/331/056331_hanrei.pdf』
このように述べて、前科等のある者であっても前科・及び犯罪歴をみだりに公表されない権利を有するとしています。
堺通り魔実名報道事件
堺通り魔事件の犯人を実名で報道したことがプライバシー権を侵害しないかが争点となりました。
犯罪報道における被疑者等の特定は、犯罪ニュースの基本的要素であって犯罪事実と並んで重要な関心事であると解されることと、本件事件の重大性にかんがみるならば、当該写真を掲載したことをもって、その表現内容・方法が不当なものであったとまではいえず
このように、社会的に関心の高い事件におけるプライバシー権と表現の自由の関係では、実名で報道するなどしてもプライバシーの権利が侵害されないこともあります。
ノンフィクション『逆転』事件
作品の中で前科等にかかわることを公表したことが、人格的利益を侵害するかどうかの判例となります。
前科等にかかわる事実については、これを公表されない利益が法的保護に値する場合がある・・・その公表によって被った精神的苦痛の賠償を求めることができるものといわなければならない
出典:『http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/442/052442_hanrei.pdf』
最高裁はこのように述べて、前科等の公表で被った精神的苦痛の賠償を求めることができるとしています。この判例では「人格的利益>表現の自由」ということになります。
「石に泳ぐ魚」事件
本書籍では、描写される人物の顔面の腫瘍について「烈な表現」がされており、それによる人格的利益の侵害を理由に差し止めが認められるかが争点となりました。
公共の利益にかかわらない事項を表現内容の小説の出版で、名誉,プライバシー及び名誉感情が侵害され,重大で回復困難な損害を被らせるおそれがあるとして,同小説の出版の差止めを認めた原審の判断には,違法がない
こちらの判例でも「プライバシー権>表現の自由」という構図になっていることが分かります。
個人情報保護法
インターネットの進展によって、私を含めたみなさんも自分の情報を勝手に流された経験があるのではないかと思います。TwitterとかFacebookとかで「~ちゃん~なんだ」みたいな感じでね。
プライバシーの情報が勝手に流されるのは避けたいですから、個人情報保護法のような法律が制定されています。
この法律では、プライバシーの保護という側面ももちろんありますが、15条において利用目的の特定・16条において利用目的の制限が規定されるなど、個人情報の取り扱いについても細かく規定されています。
私たち国民は、自分たちの個人情報を保有している行政機関などに対して、事項の公表・開示・訂正・利用停止などを含めた様々な請求ができることが28条で規定されてもいます。
もし業者は行政機関に自分の情報に関して請求を行いたいのであれば、個人情報保護法を勉強してみるといいかもしれませんね。
東京高裁昭和45年4月13日判決
人格的利益を侵害された者は、加害者に対し、損害賠償ないし名誉回復を求めうるほか、侵害行為の排除ないし予防を求める請求権をも有する
出典:『http://blog.livedoor.jp/cooshot5693/archives/52441262.html』
この判例では「人格的利益を侵害された者は、その侵害行為の排除・予防を求める請求権を有する」とされており、こうしたことが個人情報保護法の背景になってきたとも言えるでしょう。
まとめ
以上、プライバシー権についてと表現の自由との関係を紹介してきました。特に、プライバシー権だけではなく、名誉棄損・表現の自由との関係が問題になることもあるのでそちらも注目していきましょう。