憲法 基本的人権と公共の福祉の意味

日本国憲法は、戦前までの国家権力に歯止めをかけることで、私たち国民の人権を国家の不当な侵害から守るために生まれました。

その人権こそが基本的人権ということですが、基本的人権も公共の福祉によって制限されています。

 

ただ、「公共の福祉って何?」「人権を制限できるから公共の福祉って権利の一種なの?」と疑問に思う方も多いでしょう。

そこで今回は、基本的人権をみながら公共の福祉の意味を考えていこうと思います。

 

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1.基本的人権とは?

日本国憲法では、11条の97条に基本的人権が記載されているので、まずその記述を見ていきましょう。

 

憲法11条

国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は犯すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。

 

憲法97条

この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多岐にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試練に堪へ、現在及び将来の国民に対し、犯すことのできない永久の権利として信託されたものである。

 

このように、憲法11条・97条では、基本的人権は国民に保障されており犯すことのできない永久の権利として保障されています。

 

しかし、犯すことのできない権利として保障されながら、基本的人権は無制約というわけではありません。「制約されるのはおかしい」と考えた方は、基本的人権が無制約だった場合を考えましょう。

 

例えば、Aが理由もないのにB・C・Dを殺した場合を考えます。

この時、基本的人権がAに保障されるから、人を殺しても許されるとしたらどうでしょうか。B・C・Dの人権を侵害しているのに、Aが許されるのはおかしな話ではないでしょうか。 

このように、基本的人権は犯してはいけない権利ですが、一定の限られた範囲で制約されることが必要になります。

そこで、基本的人権を制限するために登場するのが「公共の福祉」です。

 

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2.公共の福祉とは?

では、基本的人権を制限する公共の福祉とはどういったものなのでしょうか。公共の福祉も憲法に条文があるので、まずはそちらを確認していきましょう。

 

憲法12条

この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

 

憲法13条

 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

 

憲法22条

何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

 

憲法29条

財産権は、これを侵してはならない。

財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。

私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

 

このように、憲法では12条・13条・22条・29条に公共の福祉という文言がみられます。では、基本的人権を制約する公共の福祉が何を意味するのかを、3つの例に分けて解説していきたいと思います。

 

公共の福祉の学説には、一元的外在制約説、内在・外在二元的制約説、一元的内在制約説の3つがあります。

 

 

①一元的外在制約説

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一元的外在制約説で定義される「公共の福祉」とは、人権の外にある抽象的な概念を意味しています。人権の外に存在することで、すべての基本的人権を制限できるということです。

しかし、一元的外在制約説による公共の福祉の定義は支持されていません。なぜなら、公共の福祉を根拠としてあらゆる基本的人権の制約も可能になるからです。

これでは、明治の大日本帝国憲法の「法律の留保」と同じように、容易に人権が制限される場合があるからです。つまり、基本的人権が公共の福祉によって制限される弱い権利になるということです。

こうした理由から公共の福祉を理解するには、一元的外在制約説は学説では認められていません。

 

 

②二元的外在内在制約説

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二元的外在内在制約説は名前が複雑ですが、内在・外在の二つに考えると分かりやすいです。つまり、公共の福祉が内側からの制約・外側からの制約があると考えましょう。

 

外在的制約

経済的自由や社会権に限り、外側から公共の福祉によって制約することができるという考え方です。

経済的自由や社会権以外の憲法12条・13条の基本的人権規定は訓示論規定は、公共の福祉による外側からの制約を受けず、人権制限の根拠にはなりえないという考え方です。

 

二元的外在内在制約説への批判

同じ概念を持ちつつある権利を外在的制約・内在的制約に分けることは妥当ではなく、また、憲法13条を訓示規定とすると「新しい人権」を生み出すことができないなどの批判がある。

 

 

③一元的内在制約説

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一元的内在制約説では、公共の福祉が基本的人権の中に内在しているという説です。この説では、必要最小限度の場合に限って、基本的人権を制約することが認められています。

 

一元的内在制約説への批判

しかし、基本的人権を制約するさいの「必要最小限度」とは何を意味するのかが分からないといった、具体的な基準が明確ではなく、一元的外在制約説とはほぼ変わらないとされます。

 

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3.まとめ

以上、3つの説を参考にしながら基本的人権を制約している「公共の福祉」を見てきました。

どの説にも批判があるため、公共の福祉は基本的人権を制限する概念であることを覚えておきましょう。