司法試験民法短答式試験H28第29問【不法行為】

みなさん、こんにちは!

今日は、司法試験H28民法第29問を解説していきます。

 

〔第29問〕(配点:2) 不法行為に関する次の1から5までの各記述のうち,判例の趣旨に照らし誤っているものはどれか。(解答欄は,[№29])

1.不法行為による損害賠償債務は,不法行為の時に,催告を要することなく遅滞に陥る。

2.被用者の重大な過失により火災が発生した場合において,使用者にその被用者の選任及び監督について過失があるときは,使用者は,その選任及び監督についての過失が重大なものではないことを理由として,その火災により生じた損害を賠償する責任を免れることはできない。

3.事業の執行について不法行為を行った被用者が損害を賠償する責任を負うときであっても,その被用者を雇用する法人の代表者は,被用者の選任又は監督を現実に担当していなければ,被用者の不法行為について,代理監督者として損害を賠償する責任を負わない。

4.交通事故の被害者が事故に起因する後遺障害のために労働能力の一部を喪失した後,別の原因により死亡した場合,労働能力の一部喪失による財産上の損害の額の算定に当たっては,交通事故と被害者の死亡との間に相当因果関係があって死亡による損害の賠償をも請求できる場合に限り,死亡後の生活費を控除することができる。

5.自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていない未成年者の行為により火災が発生した場合において,未成年者にその火災につき重大な過失がなかったときは,その未成年者を監督する法定の義務を負う者はその火災により生じた損害を賠償する責任を負わない。

出典

問題『http://www.moj.go.jp/content/001182604.pdf

解答『http://www.moj.go.jp/content/001184007.pdf

1について

判例:最高裁昭和58年9月6日

民法709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

不法行為に基づく損害賠償義務は、被害者を救済するという観点から被害者の催告を待たずに、不法行為時から履行遅滞となるため、解答は◯となります。

2について

最高裁昭和42年6月30日判決では、「被用者の重大な過失で火災を発生させた場合、使用者は被用者の選任または監督について重大な過失がなくても損害賠償責任を負う」とされています。 そのため、解答は◯となります。

3について

民法715条
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
使用者が法人である場合において、その代表者が現実に被用者の選任、監督を担当しているときは、右代表者は同条項にいう代理監督者に該当し、当該被用者が事業の執行につきなした行為について、代理監督者として責任を負わなければならないが 最高裁昭和42年5月30日判決

被用者がその事業の執行で第三者に加えた損害を賠償する義務を負いますが、現実に担当していなければ賠償する責任を負わないと解されるので、解答は◯となります。

4について

判例:最高裁判決平成8年5月31日 最高裁平成8年4月25日判決では、「逸失利益の算定に当たっては、事故後に別の原因により被害者が死亡したとしても、事故の時点で、死亡の原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、死亡の事実は就労可能期間の認定上考慮すべきものではない」としています。

死亡の原因となる具体的事由の存在・近い将来における死亡が客観的に予測されるなど特段の事情があれば、死亡の事実はその後の就労可能期間の認定上考慮されることになるため、解答は◯となります。

5について

民法714条1項
前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

最高裁平成7年1月24日判決では「監督義務者は、その監督について重大な過失がなかったときは、右火災により生じた損害を賠償する責任を免れると解すべきである」とされています。

未成年者の過失ではなく、監督義務者の過失について判決が述べられているため解答は✖となります。以上、解答は5となります。