司法試験憲法短答試験過去問解説H29 第一問【特別権力関係論】

みなさん、こんにちは!

今日は、司法試験憲法H29第一問を解説します。

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〔第1問〕(配点:2)
公権力との間で特別な法律関係にある個人に対する人権の制約に関する次のアからウまでの各記述について,正しいものには○,誤っているものには×を付した場合の組合せを,後記1から8までの中から選びなさい。(解答欄は,[№1])

ア.公務員の労働基本権の制限に関し,全農林警職法事件判決(最高裁判所昭和48年4月25日大法廷判決,刑集27巻4号547頁)以降の最高裁判所の判例は,職務の内容にかかわらず公務員の争議行為を一律に禁止することについて,合憲とする判断を維持している。

イ.公権力が特別権力関係に属する個人に対して包括的な支配権を有し,その個人の人権を法律の根拠なくして制限することができるほか,特別権力関係内部における公権力の行為は司法審査に服さないとする特別権力関係論は,日本国憲法の下では妥当し難い。

ウ.かつて特別権力関係とされた在監関係につき,現在では,刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律において刑事施設被収容者の権利義務が明確化され,書籍等の閲覧,外部の者との面会及び信書の発受の各制限についてその要件が法定されたことにより,刑事施設の長らはそれらの制限の可否について裁量を失った。

1.ア○ イ○ ウ○ 2.ア○ イ○ ウ×

3.ア○ イ× ウ○ 4.ア○ イ× ウ×

5.ア× イ○ ウ○ 6.ア× イ○ ウ×

7.ア× イ× ウ○ 8.ア× イ× ウ×

http://www.moj.go.jp/content/001224568.pdf

http://www.moj.go.jp/content/001225947.pdf

アについて

公務員の労働基本権について判例の見解が問われています。公務員の労働基本権の制限には、大きな2つの判例があり、その判例ごとの見解を見ていきましょう。

・全逓東京中郵事件(最判昭41・10・26)

判決の中で、「公務員に対して右労働基本権をすべて否定するようなことは許されない」としており、公務員に労働基本権があることを否定してはいません。

ただ、「国民生活全体の利益の保障という見地からの制約を当然に内包しているものと解すべき」としており、公務員の職務に「公共性」があり、それは国民の利益に通じるものであるということから、公務員の労働基本権は制限を受けるとしています。

このように、全逓東京中郵事件では、公務員の労働基本権は全面的に否定はされないものの、国民の利益のために制限を受けるという比較的緩やかな判断がされました。

・全農林警職法事件(最判昭48・4・25)

全農林警職法事件では、全逓東京中郵事件よりも厳しい判決が下されたことで知られています。

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判決では「国公法九八条五項がかかる公務員の争議行為およびそのあおり行為等を禁止するのは、勤労者をも含めた国民全体の共同利益の見地からするやむをえない制約というべき」とされます。

公務員の職務に公共性があり身分保障もされていることから、上記の見地より労働争議やいわゆる「労働争議のあおり」を禁止することは、憲法28条に違反するものではないとしました。

全農林警職法事件以降の判例は、公務員の労働基本権を制限する判決が出されており、最高裁の考え方は一貫していると考えられます。よって、アの答えは「〇」となります。 

 

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イについて

イは、特別権力関係論の話になりますが、まず特別権力関係論が何かを見ていきましょう。

・特別権力関係論

特別権力関係論とは、公務員と国家のような関係のことを言い、要はある法秩序の中の特別な関係を意味しています。これが「特別権力関係」と言われるゆえんです。

これに対して、一般の私たちのような人たちと国家との関係は「一般権力関係」と表現されます。

この特別権力関係は、公務員・国家のほかに大学や在監者にも当てはまる(司法審査の対象にならない)と考えられていましたが、これまでの判例で修正されてきました。

公務員ではさきほどの「全逓東京中郵事件」、在監者では「よど号ハイジャック事件」、大学では「富山大学単位不認定事件」などが該当し、個別事情を考慮して特別権力関係が否定されてきました。

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このように、特別権力関係にある者については司法審査の対象になじまないものの、個別具体的な事情を考慮することによって、特別権力関係を否定し修正された経緯があります。

よって、イの答えは「〇となりますが、富山大学で特別権力関係が否定され代わりに部分社会論が用いられました。部分社会論には地方議会・政党などが当てはまることも併せて覚えておきましょう。 

ウについて

さきほど見たように、在監関係も特別権力関係に該当するとされていましたが、「よど号ハイジャック事件」によって、特別権力関係が否定されるに至りました。

この判例では、拘置所長が在監者の閲覧の自由を制限したことが許されるかが争われましたが、拘置所長の判断が必要やむを得ないものであれば許されるとしています。

このことから、拘置所長の在監者の人権の制限に対する裁量は失われていないということができ、ウの答えは「×」となります。

よって、ア=イ=〇、ウ=×となるため答えは「2」となります。正直、特別権力関係が分からなくても判例が分かればなんとか解ける問題かと思います。

イの問題が解けないかもしれませんが、現在の日本には特別権力関係が成立することはない、このことを覚えておけば大丈夫かと思われます。

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